独立行政法人国立病院機構新潟病院のリハビリテーション科で作業療法士として働く森口さん。病気やけがでこれまでできていた生活行為ができなくなった時、体の回復だけでなく、心の回復の支援も行う、作業療法士の世界に迫りました(取材:2021年9月)。
interviewee profile
森口 真(もりぐち まこと)さん
上越市出身・柏崎市在住。国立病院機構新潟病院の作業療法士。
■森口さんの勤務先、新潟病院ってどんな病院?
脳神経内科、小児科、小児整形外科、内科、外科、心療科、遺伝外来、整形外科、脳神経外科、歯科があり、地域医療や神経難病や小児疾患などの専門医療を行う医療機関。
国立病院・療養所の独立行政法人化に伴い、平成16年4月1日より、独立行政法人国立病院機構新潟病院となり、さらなる発展をめざしています。患者さんは県内はもとより、県外からもたくさんの患者さんが受診しています。また、隣接して新潟県立柏崎特別支援学校(小学部、中学部、高等部)があり、入院しながらの通学が可能です。病状によっては、病室での出張授業も受けることができます。また、3年制の附属看護学校があり、新潟県内外からの看護学生が勉学に励んでいます。
参考:新潟病院HP
■作業療法士の仕事とは?
生活を再び取り戻す支援を行う
―どんな仕事?
作業療法の「作業」とは、食事や排せつなどの身の回りのこと、家事や仕事といったその人を取り巻く生活行為全てを意味します。 病気やけがにより「できなくて困っていること」「以前のようにできるようになりたいこと」に対して作業療法プログラムを通して生活が再びできるよう、支援を行います。
―生活支援の一つとして嚥下訓練があるが、言聴聴覚士が行う嚥下訓練との違いは?
言語聴覚士は飲み込む機能そのものの維持向上を支援します。作業療法士は生活の視点で支援します。まずしっかり食べやすい姿勢で座れているのか検討してみたり、利き手が使えなければ非利き手で食べる練習をしたり、力の弱い人であればつまみやすい箸や握りやすいスプーン・すくいやすいお皿などの福祉用具の導入や使い方の練習を行います。
―資格は必要?
必要です。専門学校や大学といった養成学校を卒業すると国家資格受験の資格が得られます。国家試験に合格すると免許が交付されて働くことができます。
―資格取得後のスキルアップは?
入職後には国立病院機構や病院内での研修を受講します。
その上で、作業療法部門で先輩や上司から患者さんに対する接遇や評価・作業療法アプローチ、福祉機器の使用方法などを学びます。また、リハビリテーション医学も日進月歩ですので最新の治療や研究報告を学ぶ自己研鑽も必要です。国立病院総合医学会や日本作業療法学会などの学術集会に参加し、最新の知見を得たり、日々の臨床で得た内容を研究発表したりしています。
―作業療法士になろうと思ったのはいつ頃?
高校3年生のときです。
―きっかけは?
自分は高校球児で、肩や肘をけがしがちだったんです。そういう状態って結構苦しくて、状態を取り戻せる、改善するということに漠然と興味を持ちました。高校の近くにある病院に「リハビリの仕事を見学させてください」って電話をしたら「リハビリには3つ仕事があります。作業療法と理学療法と言語聴覚のどれにしますか?」と聞かれたので「とりあえず全部見せてください!」って言いました。
作業療法を本で調べていったら、体の機能だけじゃなく、心やその人の生活も診るという仕事の幅広さに魅力を感じて作業療法士の道を選びました。
―最初から、作業療法士になるってことではなかったんですね
そうですね。リハビリテーションという職種に興味を持ち始めたのがきっかけです。「医療職なんだ!病院で働いているんだ!」というのを知って、養成学校を探してって感じですね。
―作業療法士の勤務先はさまざまある中、病院を選んだ理由は?
いよいよ就職先を決めなければならないというときに、養成学校の先生に「国立病院機構から求人が出ているよ」と紹介してもらいました。実際に病院見学に行くと職員の皆さんが気さくに接してくれました。
民間病院とは異なり、神経難病の方や希少性疾患の多くの患者さんが利用する国立病院機構で頑張ってみようと思いました。採用試験合格後は新潟病院に配属となり現在に至ります。
■就職後のエピソード
先輩も後輩も意欲的
―新潟病院の魅力は?
手厚くリハビリテーションを提供できるところです。リハビリテーションに従事する職員数は、中越地区で2番目くらいで、国立病院機構だとトップクラスです。
大病院とは違い、職員同士の顔が分かるので、カンファレンスも話がまとまりやすいと思います。先輩も後輩も意欲的な人がたくさんいて、刺激になりますね。
―新潟病院で働く作業療法士の特徴は? 新潟病院の作業療法士は、神経・筋疾患、神経難病、脳血管障害、がん、認知症疾患、発達障害、重症心身障がい児(者)の患者さんを主な対象とし、支援を行っています。
特に先進的な取り組みとして、作業療法プログラムの一環で腕に装着して動きの改善を図るロボットスーツHAL®単関節モデルや障がいがあっても個々の生活のニーズにあわせた自助具を作製できる3Dプリンタを活用しています。また、病気が進行し会話が困難な方へのコミュニケーション代替機器の導入や手が動かなくと
もスイッチ1つでパソコンができるようになるための練習、発達障害を抱えたお子さんやご家族への支援にも力を入れています。
―新潟病院に務めて何年?
10年目です。リハビリテーション科の中だと上から数えた方が早いですね。
―リハビリテーション科の職員は何人いるの?
作業療法士16名、理学療法士20名、言語聴覚士6名、理学療法助手3名の計45名です。
―職員さん同士の雰囲気は?
良いと思います。失敗があっても誰かがフォローできる関係性ですし、分からないことは詳しい人に聞いたり教えあったり支えあって研鑽していく雰囲気があります。コロナ禍前は季節に1回飲み会や食事会がありました。
―作業療法士の魅力は?
将来性を考えてみると、人工知能やロボットなどに代替される可能性が低い仕事ともいわれています。それから、体だけでなく心も診る仕事だということも魅力的です。病気でできないことが増えると自信をなくして、少なからず心の問題を抱える方が多いんです。そんな方々に、作業活動を通して心と体の回復も促します。
―職業あるあるって、ある?
人の動作とメンタルに目が行きますね。
例えば、仕事で箸の持ち方を教える立場なので、持ち方や作法が上手な人を見てしまいま
す。ペンの持ち方にしても、肩の力を強めてるなとか、違うところに力が入っているなとか(笑)
メンタル面だと、なんとなくではありますが、声色とか顔つきから相手の不調を感じ取れる気がします。
―お仕事のエピソードを教えて
脳卒中後に半身の手足の運動麻痺(片麻痺)を呈した主婦の方がいました。作業療法で家事ができるようになるという目標を立てました。麻痺した手足の運動回復を目指しましたが回復は頭打ちに。そうなった時、動きはするけど使いにくい手足を抱えた状態でも主婦としての役割を取り戻すために料理や洗濯、掃除といった家事全般の練習をしたり、道具を使ったら上手くできないかと検討したり、1人で難しければご家族に介助方法をお伝えしたりとさまざまな手法で作業療法を行いました。その結果、無事に主婦として自宅復帰されました。このエピソードからは作業療法プログラムに加えて、役割や生きがいといった人となりを取り戻していくことも大事ということを学びました。
だんだんと手足が動かなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病気の方がいて、症状が進行すると呼吸する筋肉も機能しなくなっていくため、喉に人工の呼吸器の管を通して呼吸を維持する気管切開術が行われました。
切開を行うと声が出せなくなるので、パソコンや透明な板に50音が書いてある文字盤を使って、コミュニケーションを維持する練習をしました。その方は他者とのつながりを絶やさないよう一生懸命練習をして、ご家族とメールやテレビ電話ができるようになりました。
脊髄性筋萎縮症(SMA)という病気のお子さんも担当させていただいています。生まれつき手足の力が弱くてテレビゲームがしたくても普通のコントローラーが使えないんですよね。でもゲームって友達とのコミュニケーションツールになったりするし、ゲーム内では身体のハンディキャップは存在しませんからその子にとってすごく価値のある作業だと感じました。そんな時、その子の力では押せないゲームコントローラーのボタンを、使う人の力にあったスイッチを接続することで操作できる福祉用ゲームコントローラーをみつけました。今その子と作業療法でゲームをする練習中で、目標は兄弟や友達とゲームをすることです。
―森口さん自身が見つけたんですか?
はい。国立病院機構の作業療法士協議会や日本作業療法士協会はじめやインターネットで情報発信している団体がたくさんあります。アンテナを張り巡らせて、あの患者さんにはこういう道具が使えるのではないかと考えたり、人に聞いてみたりします。
―患者さんも喜びますね
患者さんは1つ成功体験を得ると意欲が出てきて元気になっていく方が多いです。その過程を共有できると私もやりがいを感じます。
■柏崎での暮らしぶり
柏崎市は何でもそろう!
―柏崎市の魅力は?
子ども連れに優しい地域だと思います。公園が多いですし、海もあるし山もあるしバランスの良い地域で住みやすいと思います。
出身地が上越市の田舎なので、僕からすると柏崎は都会なんですよ(笑)。不便だなと思ったことは全くないです。何でもそろうじゃないかと!
あと、お寿司屋さんがおいしいと思います。あるお寿司屋さんに年に1回だけ先輩と行きます(笑)。子どもと行くときは回転寿司です!
―休日の楽しみ方は?
家のカーポートでバーベキューをやります。かしわざきセントラルビーチでもバーベキューをしました。最高でした。海にも入れるし、バーベキューも楽しめるし。セントラルビーチはキャンプエリアもあるので、次はキャンプに挑戦したいなと思っています。
バーベキューとキャンプのイメージ写真「写真提供:かしわざきセントラルビーチ」
―公園には行きますか?
■進路選択のアドバイス
オープンホスピタルに足を運んで
―作業療法士の仕事はどのような人が向いている? 思いとやる気のある人だと思います。
不安や心の問題を抱える患者さんと同じ目線に立てる謙虚さや思いやりを持ち合わせていることが大切です。
―進路に迷っている学生や保護者に対してのメッセージを
作業療法士の働き口は病院はもちろん、高齢者施設、学校や保育園、行政、就労支援施設、作業所など多様化しています。事業を立ち上げたり、NPOを立ち上げたりする方もいて、資格を生かして各分野で力を発揮しています。
県内の養成校は、村上市の新潟リハビリテーション大学、長岡市の晴陵リハビリテーション学院、新潟市の新潟医療福祉大学の3つです。ちなみにですが、日本の作業療法士の人数は世界的にみるとアメリカに次いで世界第2位ととても多いです。近年では世界作業療法学会も日本で行われ、世界の作業療法士たちが集い研究発表を行いました。世界的にみても日本の作業療法は注目されていると思います。
コロナ禍で、オープンキャンパスに参加しにくい状況ですが、インターネットに情報があふれているので、むしろそれをメリットと捉えて、作業療法士をたくさん検索してほしいなと思います。
新潟病院は、中・高校生を対象に「オープンホスピタル」という病院見学会を行っています。その時に、僕たち作業療法士と話す機会がありますので、ぜひ足を運んでもらえたらと思います。
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