伝統工芸を支えてきた柏崎の人々の思いが宿るこの場所にこだわりたい
躍動する人case6
大久保鋳物 五代晴雲 原惣右エ門工房
原 聡さん
650年以上前から大久保の地で育まれた「大久保鋳物」。その技術と歴史をこの地で受け継ぐ鋳物師(いもじ)。
■大久保鋳物の伝統を守るということ
原惣右エ衛門工房の5代目として、どんな思いをお持ちですか
今はこの場所というものに、すごくこだわっていますね。うちの工房は蝋型の鋳物師として
170年以上、5代目を数えていますし、鋳物師としては650年前から続いています。長い間残っているということは、柏崎の人々に支えられてきたという背景があるはずで、深くこの土地に根差して歩んできたはずなんですね。だからこそ、この場所が大切だと思いますし、こちらから発信することで、興味を持った方には実際にこの場所へ足を運んでいただきたいと思っています。
鋳物の魅力とは
同じ金属加工でも、彫金や鍛金は金属そのものに少しずつ手を加えながら形が出来ていくんですが、鋳金は造形がぱっと出来上がるというのが面白いところですね。
鋳物というのは、溶けた金属を流し込むための鋳型を砂で作ることが鋳物師の最大の仕事です。鋳型はその都度、出来上がったものを取り出すために壊されるので、はかないものなんです。その中でも蝋型という技法は、ひとつの原型でひとつしか作れないという面白さがある。そんなふうに鋳型ははかないものとして生まれるんですけど、そこに金属を流し込むと、逆に丈夫で壊れないものが生まれる。性質がころっと変わるんです。そういうドラマチックというか、劇的な変化を見せるところが面白いですね。
鋳型を壊して中のものを取り出す瞬間は、作り手にとっては上手くいくかどうかの瀬戸際で、楽しみでもあり、失敗するかもという緊張感もある。だからこそ出来上がったときは、他ではなかなか味わえない感動があります。
■柏崎と海外をつなぐ「HANABI プロジェクト」
令和2(2020)年には海外の方とコラボした酒器が大変好評でしたね
初めての試みだったのですが、想像以上の反響をいただいて驚きました。以前、海外のプロジェクトに参加させていただいたときに、シンガポール人のデザイナーと友人になって、2017年の柏崎の花火大会にご招待したんです。そうしたら、花火にすごく感激してくださって、私の作品と柏崎のまちを、自分たちの仲間を通じてシンガポールや台湾に紹介したいと言ってくださったのが始まりです。
彼のデザインで、花びらのような形で集めて並べると花火のように見えるという酒器「HANABI」を3年かけて創り上げました。2020年の花火大会に合わせて発表しようとしたところで新型コロナウイルスの影響で花火大会が中止になり、どうしようかとみんなで悩んだのですが、こういうものにも鮮度があるので、逆にこの作品を花火の代わりに楽しんでいただこうという形で、限定発売することになりました。酒屋さんと和食屋さんに協力いただいて、柏崎のお酒とお酒に合うおつまみをセットにしたものも発売しました。
ふたを開けてみると反響がすごくて、最初の限定数は、予定期間の半ばで売り切れてしまった。海外に展開する予定だったものを国内に回したのですが、それも完売。酒器セットも期間を待たずに完売しました。これだけの反響は、やっぱりデザインがよかったし、PR用の写真もよくて、全てがパーフェクトだった。集まった人たちが全員一流の人たちばかりだったので、やっぱりエキスパートはすごいと思いましたね。実は全員友人関係から始まって、そこからビジネスにつながったので、良い意味で仕事っぽくないところがよかった。こういう形もあるんだなと思って面白かったですね。
この酒器の鋳物としての良さはどこにあると思いますか
表面がざらざらした雰囲気は、うちの工房の伝統的な製法で生み出されるものです。すごく時間がかかる手法なのですが、少しファジーな仕上がりになって、それが当工房らしさ、自分らしさなのかなと思いました。今回、初めてスズを使ったのですが、熱伝導が早いので冷酒を注ぐと、瞬間的に冷たさが手に伝わる。それは感動します。外側に結露するのも涼しげで、夏向けの良い酒器になったと思いました。
実際にお酒を飲んでいただくと、実は丸くすぼまった形なので、飲みにくいんですよ。でも、酒屋さんが花びらの形のとがった部分から飲んでみたら、流れが出来てお酒が一気に味覚があるところまで入ることに気が付いて「勢いよく流れ込んで、中で酒が開く。まさに花火だね」って言ったんです。偶然なんですけど、2種類の味わい方ができる魅力的な酒器になりました。
これからの作品づくりの目標は
自分の作品づくりとしては、自然に寄り添うもの、そういうことをイメージさせるものに惹かれますね。お買い求めいただいたお客さまから、自分の生活スペースに置いたらすごく落ち着いて、気持ちが和んだ、という言葉をいただけるのが至上の喜びです。使う人と共に永い時を重ね、暮らしに寄り添えるものづくりを大切にしていきたいです。
技術的なところでは、鋳物はいろいろな金属を混ぜることができて、混ぜる量やタイミング、温度によって、出来上がる鋳物は無限の可能性があるんです。いろいろな金属を自分で編み出して、違う表現を発見できたら楽しいだろうなと思っています。簡単ではないんですが、逆に簡単なものって楽しくないじゃないですか。飽きてしまう。そういう部分ではこの仕事は苦しいからこそ面白いですね。
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